全ての始まり。出会い・・・。



















「 宵月〜始まりの物語〜 」









































ザァザァと雨が地を叩き付け、景色は白くぼんやりと霞んでいる。


山間にある小さな村に、その場にそぐわない男が一人―――薬箱を背負っている事から、薬売りだろう。


薬売りは、ブツブツと何かを呟きながらこの村で一番大きな屋敷の前に・・・。


まるで雨など降っていない様な振る舞いで立っていた。


カタカタと、薬箱が・・・否、薬箱の中のモノが音を発てる。


薬売りは、それを確認すると意味あり気に笑みを浮かべ中へと足を進めた。
























「すいやせん、ちょいと・・・雨宿りを させて頂けませんかねぇ。」


中に入ると、その屋敷の下働きの者であろう女が出てきた。


「ここは、この村を治める板神様の御屋敷。得たいの知れない怪しい輩を入れる訳にはなりません。」


「ふむ・・・困り ましたねぇ。」


そこで、薬売りは顔を上げる。


すると、忽ち女の顔が朱に染まる。


「まぁ・・・特別に御主人様に話を着けておきましょう。ささ、此方へ。」


薬売りは「これは・・・助かりますぜ。」と一言呟き中へと入っていった。


外観も豪華だが、また内装も豪華絢爛だった。


骨董品があれば、どこかの異国の物だと思われる物などたくさんの置物や掛け軸、とにかくすごかった。


案内の途中、何とも異質な襖があった。


「あの部屋は・・・何なんで?」


「!・・・別に何にもありませんよ。」


薬売りの問いかけに、下働きの女は、一瞬焦りの色を見せたが、すぐに歩をまた進め始めた。


まるで、その場から早く逃げ出したいかの如く。


「ほう・・・。」


薬売りはまた感嘆した様な声を漏らした。


そして、やはり薬箱の中のモノはカタカタと音を発てていた。























「あら、良い男。誰かしら?」


ある一室へと通されると、派手な着物を纏った一人の女が来た。


「これは、これは、奥様。この者は薬売りに御座います。」


どうやら、この女はこの屋敷の奥方のようだ。


「雨宿りを 暫しの間、させて・・・頂きたく。」


「ふふ、若い男は好きよ?どうぞゆっくりしていきなさいな。」


その言葉に薬売りは静かに頭を下げた。


「八重、仕事に戻って良いわよ。私は・・・薬売りさんと、お話ししているから。」


薬売りの肩をつ、つ、つ、と人差し指で一撫で。


「はい、失礼致します。」


八重は、すくりと立ち上がり仕事へと戻って行った。


「ふふ、本当に良い男。薬売りさんはどんな薬を売っているの?」


「色々・・・ですよ。」


「色々、ねぇ?」


「例えば・・・コショコショコショ。」


「まぁ。他には?」


「他には・・・此方など。」


「本当に効力はあるのかしら?何なら・・・」


薬売りの耳たぶを甘噛みし囁く。


「私と試してみない?」


ドサリと押し倒し、薬売りの着物をほどこうとする。


「奥方様・・・いけませんぜ。」


「やぁよ。千恵と・・・呼んでちょ・う・だ・い。」















「奥様、ご主人様がお呼びに御座います。」


「・・・まったく、間の悪い。」


千恵は、ぱっと薬売りの上から退き、乱れた襟を直すと出ていった。


「入って来たら・・・どうですか?」


すると、千恵が出ていった襖の反対側の襖の方へと薬売りは声を掛ける。


ゆるゆると襖は開き、そこから一人の少女が出てくる。


「・・・。」


其処には、床までつく黒い髪に色白の肌の少女がいた。


顔は、長い前髪によってよく見えない。


「どうか しましたか?」


「・・・。」


沈黙が続く。そして


「ごめんなさい。」


やっと言葉をつむぐ少女。


鈴を転がした様な可愛らしい声。


「何が・・・ですか?」


「だって、勝手に出てきてしまったから。」


少女の肩は、カタカタと震えている。


「俺は、怒りませんよ。」


「本当・・・に?」


「ええ。」


薬売りは、にこりと笑うと少女の頭を撫で始めた。


「あわわ、あっあっあの?」


「頭を撫でるのは・・・やはり嫌でしたかい?」


少女が恥ずかしがっているのは、目に見えているのだが薬売りはわざとらしくそう聞く。


「嫌じゃ・・・ないです・・・。」


少女は大人しくなり、そのまま薬売りに頭を撫でられた。


「そういやぁ・・・。あの赤い襖の部屋は・・・何なんで?」


少女にそう問うと、少女は一瞬何かを考える素振りを見せた。


そして、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出す。


「あの・・・部屋は・・・。私の、母様の・・・お部屋・・・なの。」


「ほう・・・あの若い奥様の?」


「ううん、あの方は後妻。私の・・・母様は、死んだから。」


表情は見て取れないが、声が泣きそうである。


「そう・・・か。」


薬売りは、一言そう呟くとまた頭を撫でた。


「ありがとう。私は、。貴方は?」


「ただの・・・薬売りですよ。」


そう言うと、は一瞬不思議そうな顔をした後


「ふふ。じゃあ薬売りさんとお呼びすれば良いですか?私の事はとお呼び下さい。それから、敬語じゃなくていいですよ。」


「わかった。俺も 敬語じゃなくても良い。」


「・・・でも、私は怒られてしまうから。」


「俺の 前では・・・ね?」


「・・・うん。」


バンッ!!


急に襖が開き、そこから一人の男と千恵が出てきた。


その瞬間、が「ひっ!!」と小さく悲鳴をあげた。


部屋の隅に小さくなり壊れたように「ごめんなさい。」と呟き続ける。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」


つかつかと男は、の前まで行くと力強く。


バシッ!!


平手打ちをする。


は、壁に体を打ちつけ蹲る。


そんなの髪を引っ張る男。


「っ・・・ぁう。」


・・・何故ここにいる?!お前は、部屋から出るなと言ったはずだ!!」


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」


「だったら・・・部屋へ戻ってろ!!!!」


「はいっ・・・。」


は、一度薬売りを見るとよろよろとしながら出て行った。


「これは、お見苦しいところを見せてしまった。どうぞ、そのまま御寛ぎを。」


「・・・。」


これが、と薬売りの出会いだった。








































□ 






















































































































あとがき


この話は、宵月の過去編にあたるものです。


この話でさんの能力について、わかったりわからなかったり(どっちやねん)



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