私が恐ろしいもの・・・。
嗚呼、それは。
『 宵月〜モノノ怪 海坊主〜二の幕 』
「私は・・・。」
ちらりと薬売りを見やる。
そして、は意を決した様に海座頭を真っ直ぐと見、答えた。
が恐ろしいと考えるものを。
「私は・・・私は、自分の存在が一番恐ろしい。」
「・・・?」
の言葉の意味が分からずに不安げに首を傾げる加世。
そして薬売りは、顔を歪めた。
―――お前さえいなければ、お前さえいなければ。
ごめんなさい。ごめんなさい。
―――お前のせいで、板神家が滅んだのさ。
ごめんなさい。ごめんなさい。
―――お前は人を不幸にしてしまうんだ。
ごめんなさい。ごめんなさい。
―――だから、お前の大切な者も・・・皆、死んでしまうのよ。
暗闇の中に現れる薬売り。
その薬売りがぐらりと崩れ落ちる。
『薬売りさん!』
駆け寄れば広がる、あか・赤・朱。
「いやあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
「・・・。」
薬売りに名前を呼ばれ、はっと意識が戻った。
「く、すりうり・・・さん。」
ぎゅっと薬売りに抱きつき、薬売りの温かさに安堵する。
良かった。貴方がいなくならないで・・・。
「さて、残ったのは三人。誰から海座頭に答えますかな?」
源慧がそう言うと薬売りがから優しく離れ、すっと立ち上がり
「問うがいい。答えよう。」
と言った。
べんっ。
「お前が本当に恐ろしいのはなんだ。」
「此の世の果てには形も真も理も無い世界がただ存在していると云う事を知り、そして・・・。」
薬売りはちらりとを見ると最後まで言い切った。
「己の存在価値の無い世界があるという事を知るのが怖い。」
目を見開き薬売りを見つめ返す。
薬売りはぎゅっと手を握り締め幻に耐える。
「薬売りさん・・・私は、ここにいる。」
そっと薬売りの手をは自分の手で包み込むと優しくそう告げる。
するとふっと瞳に光が戻ったかと思うと薬売りはの方を見た。
その視線に気付き、にこりと笑う。
そして、頬に軽く口付けた。
「なっ?!」
こんな状況でなにを?!
が口に出そうとした瞬間、薬売りが顔をゆっくりと離す時。
それは、それは、小さな声で・・・。
「っ・・・。」
ありがとう。と言った。
その言葉には、軽く俯くと薬売りに分からない様に微笑んだ。
「怪が集う、モノノ怪の海・・・。その海へこの船を差し向けた訳。」
すっと、薬売りは源慧の方へ視線を向けると。
「御聞かせ願いたく・・・。」
そう言えば、菖源がはっとした様に立ち上がった。
「わっ私・・・。」
何かを言いかけたところで、ベンッと琵琶が鳴る。
そして問われた。
「お前が一番恐ろしいものはなんだ」と・・・。
「ひっ!・・・わっ、私が本当に恐ろしいのは・・・。」
視線をびくびくとある人物に向けた。
「源慧様です。」
「えっ?!」
その答えが意外だったのか、加世が声をあげた。
「源慧様は、大変立派な方です。しかし、この江戸への旅では可笑しな事ばかりなさる。」
「そうかも、しれぬな。」
その言葉に肯定の返事を返す源慧。
「昨夜も・・・ずっと御経をずっとお唱えになっていましたが、私を無理に外へ出しました。そして羅針盤に細工が出来たのはお師匠様だけです。」
「どうして、こんなこと。」
加世が問う。そして、静かに源慧は口を開いた。
「皆を・・・巻き込むつもりはなかった。しかし漁師達にこの竜の三角まで乗せてくれと頼んでも誰も承知してくれる者はいなかった。」
「震えて・・・いますよ。」
がそっと言う。
「そこまで貴方を恐怖させながら、この海にまで来なくては、ならなくなった訳。海座頭!問うがいい!」
薬売りがそう言い放つとベンッと琵琶が鳴り響いた。
「これを・・・待っていたのよね。」
眉を顰めながらが呟いた。
そして、語りだす。それは止まっていた時が流れる様に。
「それは50年もの間、恐ろしさに我が身を震わし続けてきたもの。それは、この海にある。」
怪の海を作りもの・・・それは。
「50年前、私の妹が乗って流された・・・空ろ舟」
その言葉を機に海座頭が満足した様に帰ったいく。
琵琶の音を一音残して。
「海座頭は・・・消えたのか。」
気分の悪そうな幻殃斉が源慧に言った。
黙ったままの源慧。どこか、一点をただただ見つめるばかり。
「ねぇ、空ろ舟って・・・?」
加世がの着物の裾を軽く引っ張りこっそりと聞く。
「それはなぁ。元々は大木を刳り貫いて作られた船のことだ。」
「中が空洞?そんな船に乗ったら・・・出られないじゃない。」
「そう、出られない。そういう船なんだ。」
幻殃斉の言葉に混乱する加世は、に困った様に視線を向ける。
「そんな船に、妹さんがどうして?」
かしゃん。鎖の音が響き渡る。
「鎖の音が。空ろ船を縛った鎖の音が。」
怯え、耳を塞ぐ源慧。
「薬売りさん。」
何かを逸早く感じ取ったが、薬売りの名を呼ぶ。
空を見れば、大きな眼。ぎょろりと視線を這わす。
そして、水が真っ赤に染まったと思うとそこに天から鎖が勢いよく入る。
からからから。
音をたてながら上がってくる何か。
それは・・・。
「空ろ舟。」
がそう言うのと同時に水から出てきた空ろ舟。
「源慧様!50年前に一体何があったのですか?!」
かりかりかり。
突如、空ろ舟の中から聞こえてくる、爪で中を引っかく音。
「あのモノノ怪の・・・」
「誠と」
「理。・・・御聞かせ願いたく候。」
薬売りは、退魔の剣を。は、鉄扇を構えながら言った。
「許しておくれ。お庸・・・50年もの間。お前の事を忘れたことは一時もなかった。」
ゆっくり、ゆっくりと空ろ舟に近付く源慧。
「私の身代わりに、空ろ舟に自ら入り、竜の三角に流れていったお前が・・・この様な場所を作り出してしまうとは!」
ぽろぽろと大粒の涙を流す。
「どうしたら、思えよう!」
かりかりかりかりかり。
激しくなる、音。
「モノノ怪の形・・・来たれり。」
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あとがき
久々に、某動画サイトでモノノ怪を見ながら書きました。
もともとない文才がさらに減・・・。(アイター)
だー!!でも、やっぱり薬売りさん大好きだぁぁぁぁぁぁ!!!
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